「みんカラ」掲載 2012年02月09日

峠ワークス3台 2 2『切ない関係』を「セツない関係」と読むか、「キレない関係」と受けとるか。それは読む側の気分に任せよう。

本田俊也編集長がずっと頑張っている。また新しいHot-Versionが届けられて、通算114号をカウントした。復活して、もう4号目になるのか。

Hot-Versionの創刊は、1991年の7月10日で、そのころ「ドリフトキング」として登場し、さらにレーシング・ドライバーの「新しい風」としても人気沸騰中だった土屋圭市をメインキャスターに、スタートしている。当時、定価2400円。発行部数、3万。「100%、土屋圭市走りまくりの60分!」と謳って、登場したばかりのFFレビン/トレノをHONDAのV-TECと対決させて、どちらが男のクルマになったのか、と問い詰めていった記憶がある。

R33_rikubetu_a  確実に売れた。その年は11月の終わりにもう1本、第2号を出し、やがて発行インターバルが季刊ものから隔月刊に昇格していった。本誌である「ベスモ」も躍進を重ねていた時代だった。「BMスペシャル」と銘打った別冊ものも順調に巻を重ね、それにこの新シリーズのヒット。読者に支持されている。その手ごたえが、キャスターやスタッフに、自分たちの創りあげているメディアへの「自信と矜持」を植えつけてくれた。目線はつねに、読者=支持者に焦点があり、どうやれば心を通わせ、充実したカーライフの糧にすることができるか、に心を砕くようになった。ぼくが「ベスモのDNA」と呼ぶのは、そこのところだった。

kouho_dori_1 1995年4月号、R型33GT-Rの待ちに待ったデビュー。さっそく筑波でバトル&テスト。ところが持ち込まれた広報車のポテンシャルが異様に凄すぎた。自ら購入したばかりの、いわゆる市販車のNEW33GT-Rを同じステージでのテストに供していた土屋が、あまりの違いに絶句した。怒りに変わる。ガンさんをはじめとする参加キャスター全員がそれに賛同する。われわれがユーザーに嘘をつくわけにはいかない、と。

改めてオール・ノーマル市販車でのやり直しテストを求めてきた。早速、各自動車メーカー広報にもそのことを伝え、「広報チューン」の自粛を求めた。その姿勢が通用した時代だった。5月号で、鈴鹿サーキットでの比較試乗&バトルが挙行されている。加えて、6月号で『R33 GT-Rチューンドマシン』をごっそり集めてワンメイクスBATTLEまで試みてしまう丁寧さ。正面突破、それが「ベスモ」のポリシーであった。

dori_gan その時の主役である土屋圭市が、トヨタ、スバル、日産のワークスマシンを、2012年版のこの号で料理しているようだ。その「ベスモDNA」が継承された雰囲気を、この号のパッケージから感じ取り、いそいそと、最新号の封を切る。

パッケージは、右上に『峠 最強伝説―2012年シーズン開幕SPECIAL』とけしかけて、中央に『ワークスチューニングの底力』と、メインタイトルをぶつけている。3台のワークスマシンを群馬サイクルスポーツセンターに持ち込んで、徹底的に走りこんでやろうというのだろう。トヨタTRDのISF、SUBARUからSTI-S206、それにNISSANからGT-Rの2012年モデルと対比マシンとして2011年モデルまで加わっている。テスターに織戸学、谷口信輝が起用されて、土屋を両脇から支えていた。

この3人、呼吸が合っている。織戸が適当に突っ込み、谷口がさりげなく土屋をフォローする。

峠GT-R走り2 ほかのテーマとして、150台のNSXが鈴鹿のTWINコースに集結して、走りのNO.1を競ったコーナーや、定番の「THE Drift Muscle」などがあるが、ぼくの目は「ワークスチューニングの底力」に吸い寄せられてしまった。ステージとなる「群サイ」は「エスケープゾーン・ゼロ」「容赦ないアンジュレーション」「ストリートチューナーたちの聖域」などと、ゾクゾクするような〈嗾(けしか)け〉コピーが、けっして誇張ではないことをぼくも知っている。そこへメジャーなメーカーワークスが仕上げたチューニングマシンを投入できるとは、「ホットバージョンもなかなかやるじゃないか」というのが、率直な感想であった。

第1の刺客はTRDから送り込まれた「LEXUS IS F CCS P」。軽量化のためのカーボン・フードにフロント・スポイラー、同じくカーボン製のリアウィングをつけた紺色のボディ。それを特注のサスペンションと組み合わせてしなやかな乗り心地を狙ったという。

エンジンはV8の5リッター、423 ps/6600rpm。それにチタンマフラー。贅沢の極みではないか。

「しなやかな脚っていうけど、群サイをちゃんと走れるかどうかだよ」

TRDの開発者を前にして、ドリドリ(土屋君の愛称)が一発かましてから、コースへ飛び出した。大きなギャップをこなした。コーナーによってはかなりの舵角をもとめられているようだ。

「ギャップ乗り越えは100点、スポーツカーというなら、もうチョイ、ロール度を抑えたい、という感じ」

つづいて織戸学のインプレッション。

「フロントに比べて、後ろのつきあげ感が気になるな」

タイムアタックは谷口信輝が担当。どういう計測の仕方か、ぼくには判らないが、どうやら、ここで研鑽を重ねているストリートチューナーたちを脅かすのに十分な、恐るべき調教ぶりであるらしい。谷口が指摘する。

「ほんとうは限界域が見えてないので、どこにあるのか踏込みたいのだが、ここじゃ、こわくて調べたくないな」

つぎのエントリーは、ニュルブルクリンクの24時間レースでクラス優勝(総合21位)したチューニング・ノウハウを注ぎ込んだS206。軽快なハンドリングに乗せられて、ドリドリのアタックが、だんだんと熱くなっていくのが見てとれた。織戸、谷口もそろって好感触。が、残念ながら、事前でのディラーへの告知段階ですでに売り切れてしまったという。追加販売があるなら、考えてみようかな、という向きが続出しそうなマシンであることは間違いない。

さて、待ちかねはNISSAN RT-Rの2012年モデルだろう。解説に開発実験グループの神山チーフを招いているから、安心して画面に入っていける。この辺は制作側の取り組みとして、目配りがきいているな、と好印象。113号ですでにアウトバーン走りを披露しているから細かい説明はいらないのだが、まず初期型ユーザーの谷口が斬りこむ。

「何が違うんですか? ぶっちゃけ……」

「まず特徴的なのは、エンジン。11年モデルは530馬力だったのが550馬力に。トルクも2キロちょっと、当然アップしていますから、中・高速領域でのパワー感、トルク感、加速感が数段向上しています。それと左右非対称のサスペンション。これはまだほかのメーカーさんではやっていません」

まあ、車両価格がピュアエディションでも870万円、トコトン進化させて、至高のワークス製チューニングマシンを創りあげたところで、だれからも文句はでない。

まずは2011モデルからドリドリが味見をはじめた。すでにサーキットでは乗っているが、この「群サイ」でどうかが、いまの「土屋基準」だという。

「いいよ」「いいわ」を連発するドリドリ。なるほどコーナーで躍動するGT-Rの姿は、テンポのいい音楽に浸っている気分にしてくれる。

織戸の感激ぶりは、さらに1オクターブ高かった。

「凄い、これ! やばい! 楽しいんだけど」

谷口は無言でアタック。そしていよいよ2012年モデルにそれぞれが取り組むのだが、12年モデルのほうがじゃじゃ馬的だと同じ感想を伝えてきた。そこで谷口が新しい試みでアタックする。ダンパーをレーシング・モードからノーマル・モードに切り替えたのである。いくつかのコーナーを駆け抜けたところで、谷口が歓声をあげる。

「おお、フロントが踏ん張る。まとまり感があるよ。最高! あ、は、は!」

HV4 タイム計測でも、これまでストリートチューン組がコツコツと積み上げてきた区間記録25秒台に、2012年モデルはあっさり踏み込んでしまったらしい。

が、ぼくにとって、それがどうなの?という基本的な疑念を消すことができない。ナレーションが大見得を切る。メーカー製ワークスチューンはディーラーオプションの扱いだから、走りの世界では軽視されてきた。が、それは昔の話。レースシーンや研究開発で得たノウハウをフィードバックできるワークスチューンにいまこそ光を当てようではないか、と。

 

それだけこの企画に、胸を張るのなら、一言注文をつけたい。とりかかりとして「群サイ」TESTはいいが、さらにステージを筑波、いやせめて間瀬・日本海サーキットででもいいから、土屋、織戸、谷口が並走するシーンを設定できないものなのか、と。今の状況では様々なネックのあることを承知の上で「ベスモDNA」の継承されんことを、切ない想いで願いつづけている……。