「みんカラ」掲載 4月15日

dorikin_c4月8日は全国的に晴れ。山里・秩父の清雲寺にも春が訪れたようだ。樹齢600年の枝垂れ桜が、満開間近か、だという。そんな花便りと一緒に、復活「ホットバージョン」のVol.115が届いた。

いそいそと封を切る。メインタイトルは『AE86 筑波N2決戦』とある。どうやら今号の舞台は「群サイ」ではなく、ベスモのメッカ・筑波サーキットらしい。能書きは抜きにして、再生機にディスクをセットする。

「筑波アタック、一番乗り!」

おぅ、お馴染みのナレーター、平野義和さんの声が張っている。いつもより晴れやかで、乗りがよさそうだゾ。

akiosyatyou「2月2日、TOYOTA 86(ハチロク)発表会場、そこからはTOYOTAの本気度がうかがわれる。床には道路をイメージしたペイントが施され、ハチロクに乗って登場したアキオ社長はなんとレーシング・スーツ姿ぁ。こんなことは超異例だ」

言葉はいらない。それだけで、TOYOTAのハチロクにかける想いは判ってほしい、という演出だろう。

そして発表会場となった幕張メッセに隣接するデモラン会場。カメラが移動してみると、そこには「パフォーマンスドライバー」がふたり、待機していた。織戸学と谷口信輝の両君。となれば、やることは決まっている。同乗走行しながら、超接近ドリフトをするしかないだろう。

taniguti ちょいとオーバーなドリフトアングルタイヤでスモークを巻きあげながら、ピタリと停止。ドアが開く。右手を挙げながら会場の拍手にこたえるドライバー(実は谷口クン)。それがアキオ社長にすり替わっていたなら、こんな超センセーショナルなデモンストレーションはないだろうに……なんて連想が働くのも、久々の登場のFRスポーツなればこそ、か。

「そのTOYOTAハチロクをどこよりも早く、筑波アタック一番乗りィ」

ナレーションに促されて、赤いハチロク、登場。谷口クンもオーダーしたのと同じ、上級グレードの6MTリミテッド、アバウトにいって、1998ccで200馬力の水平対向DOHC、16バルブ。お値段は、約300万円だそうな。

86走り ぐっと低く構えたフォルム、2×2の居住性、リアシートを倒せば結構、荷物もたっぷり収納できるスペースあり。なかなかに走り屋のツボを抑えた嬉しい設計。コクピットに配置されたシフトレバー、サイドブレーキの位置まで、きめ細かく説明してくれる。

そして、お決まりのレーシング音。ピストンが互いの振動音を打ち消す水平対向エンジン。――こんなふうに、新型車をなめるように披露してもらえたのは、いつ以来だろう。   ハチロクの潜在能力の高さは、もう充分、予測できた。こうなれば、筑波アタックでどこまでハチロクを裸にしてくれるか、だ。そして、アタッカーは当然、ハチロクならこの人を置いてない、ドリドリ土屋圭市、降臨なるか!?

率直に言って、このごろのぼくは土屋圭市クンから、かつての輝き、熱気を感じなくなっている。このレース界のあるカテゴリーで大御所的な立場にまで、彼が上りつめたからだろう。

ドリドリ ちょうど30年前の’82年富士フレッシュマンレース第3戦(4月25日)のプログラムが手元にある。当時46歳だったぼくは、第2レースのNP1600Cクラスにパルサーを駆って出場している。その前戦、スタートでギアをバックにぶち込んでしまうという、信じられないことをやってしまった(俗に『逆噴射事件』とよばれる)お詫びで、また出場したというわけだ。その第5レースのP-1300Bに、サニーでエントリーしている②土屋圭市(26)の名前が載っている。この若者は、FISCOを湧かしつづけた。このあと、KP61(スターレット)やTSサニー、86レビンと乗り継ぎながら、どのレースでもトップ集団を走った。          レースの合間、ヘアピンで観戦しながら、雑談した記憶がある。何でも、単独でマシンをトラックに積んで、小諸近くの東部町からやってきたという。目の輝きがひどく印象に残った。

2年後、’84富士フレッシュマンで新しいカテゴリーがスタートした。NPオープンと呼ばれる、スカイラインターボ(DR30T)とレビン・トレノ(AE86)がクラス分けはされているが、混走するレースだった。

これが大注目を集める。シーズン後半になると、このレースでの土屋クンの走りを見るために観客が押しかけたくらいだ。萩原誠、粕谷俊二らのドライブするスカイラインターボに直線で置いて行かれても、100R,ヘアピン、300Rからニューコーナーで土屋トレノがマシンを真横にしながら、抜いてしまう。

特にウェットコンディションになろうものなら、非力な土屋トレノが「どっかんパワー」のスカイランターボ勢をカモってしまうバトル・シーンは、見るものにある種の感動を与え、FISCOの語り草になったほどだ。

『ベストモータリング』をスタートさせて半年、なかなか軌道に乗せられない時期があった。そこで打開策の一つとし、そのころ「ドリフト・キング」として勇名を馳せていたのが、その土屋クンだった。改めて会ってみて、それまでにない「新しい風」を感じた。

土屋圭市起用は大当たりだった。この人が登場するだけで画面がパッと明るさを増す。少年のようにキラキラと輝く目。コメントも、自分の感じていることを平易に表現できる。加えて聴いていて気持ちのいい声。これも大事な要素だ。かつては音楽の道を考えたほどだったが、ヤマハの「つま恋音楽祭」の信越地区で3位入賞に終わったのが気に入らなくて、レースの方を選んだというから、相当のレベルにあった――そんなふうな紹介文を書いた記憶もある。

この号のNEWハチロク・アタックは必見である。ここからは、HVのVol.115でじっくり味わっていただきたい。が、もう少し、この号でぼくが目撃し、感じ取った「土屋圭市、降臨」の実況を続けたい。