「みんカラ」掲載 2012年8月23日

実戦だから目撃できた土屋圭市の『レース・テクニック』

dori_5「なんだ、これ? お~い。大丈夫かよ、これ!」

ゼッケンナンバー43。土屋圭市のFIT RSは、15分間の予選アタックのため、ピットからコースに出ようとした瞬間、異変に襲われる。3800回転で、ゴクゴクと異音を発して、エンジンにリミッターがかかってしまった。

「こりゃ、ダメだ!」

あわてて、ピットイン。そのときコースをショートカットしてしまう。メカニックが慌てて、エンジンフードを跳ね上げた。原因はすぐに判明。カプラーの接触不良だった。

「土屋がアクセルを踏み込んでみる。今度は大丈夫だ! が、すでに予選開始から7分40秒が経過していて、残り時間で3周できるかどうか!? タイヤも温まっていない。そこからの土屋の走りは、まさに必見もの。凄い! まさにドリドリ、降臨。……」

《「伝説の戦士たち」の実戦バトル》はここまで紹介していた。では、再開!

土屋がコースに復帰するのを待っていたかのように、MOTEGIに雨が降り出した。これはピンチだ。最初の1周、2分36秒台。8台中の、ああ、7番手。鈴木亜久里あたりは余裕綽々。早々とピットに戻ってきてしまう。タイヤを温存する作戦だろう。

この雨で喜んだのは中嶋悟。「雨の中嶋」で世界を驚かせた、あの熱い走りで2分35秒384をマーク。その時点で2番手だった。

予選の終了時間を迎えた。そのとき土屋は最後のアタックに入っていた。車載カメラが決してあきらめていない模様を、忠実に捉えていた。

富士フレッシュマン時代に体得した秘技「サイドブレーキ」

富士フレッシュマン時代に体得した秘技「サイドブレーキ」

タイトコーナーに突っ込む。と、クイッとサイドブレーキを大目に引き上げる。フロントの向きが奇麗にクリップを捉える。そこで次の動作――クラッチをポンと蹴りこんでいる。するとマシンは元気に真っ直ぐ立ち上がっていく。これぞ土屋が、かつて富士フレッシュマン時代、サニーなどで体得した秘技であった。 「クラッチ蹴り」は、エンジン回転が落ちるヘアピンなどで、クラッチを蹴りこむことで、回転をキープするテクニック。

「サイドブレーキ」は、荷重移動で、瞬時にそのバランスを、リアへ強くかけていくための秘術だといっていい。

「こういうパワーのないクルマは、いかに抵抗を減らすか、なんだよね。クルマの向きを、いかに真っ直ぐにしてやるか、だよ」

タイトなコーナーでエンジン回転が落ちるときに「ガーン」と一発。これが「クラッチ蹴り」

タイトなコーナーでエンジン回転が落ちるときに「ガーン」と一発。これが「クラッチ蹴り」

HVの画面にも、テロップが入っている。これはいい。――クリップから先ではなるべくステアリングを真っ直ぐな状態にすべし!yosenn結果  結局、この周で土屋は、「サイドブレーキ使い」を7回、「クラッチ蹴り」を2回、実行していた。で、タイムは!? やっぱり! なんと、なんと、トップに躍り出た。タイムもただ一人、35秒台を切っている。

熱心にピットのモニターに見入る鈴木亜久里。隣にいるのは「XaCAR」の城市編集長ではないか。

sasuga「さすが!」

そう言い捨てると、カメラに背を向け、

「どうして、このタイムが出せるの!? これ以上、速く走る方法が考え付かないんだけど」

首をかしげる亜久里だった。そこへ走り終えた土屋がやってきた。そこで一発!

「空気読んでないって、みんな怒ってたよ」

それに対して土屋がやり返す。

「いやいや、おれは国さんを護衛したいから、一番前にいたいだけなの!」

では、72歳の往年の伝説ドライバーはどうだったのか?

2分35秒549で予選5番手。走った印象を述懐する。

「力が入ってしまって、どうしてもレーシング攻めをやってしまってアンダーを出し、早く立ち上がろうとするとコースアウトしそうになる。そういう意味では面白かったし、楽しみました。土屋くんがぼくを援助してくれるって。さすが、いいタイムを出してきましたね」

そこへ、アナウンスが流れた。土屋に対して、タワー3階に出頭するように、という呼び出しがあった。やっぱり、トラブル解消のため、ペナルティ覚悟でコースをショートして、ピットに戻ったのが露見したのだ。そして、予選5番手に降格させられたのである。ああ、幻のポールポジション。かわって、突然PPに押し上げられたのが、ゼッケン50番の後藤比東至選手。AUTOSPORTからのエントリーだ。

その時の心境やらレースの模様、プロフィールは、おなじ「みんカラ」に彼のBLOG《ミニとハチロク、ときどきニュル》に収録されているので、ぜひお立ち寄りを。

hit_1 hit_3

もう一つ、このレースで2周目に国光選手にプッシュされて、わざわざ1周遅れで走ったピストン西沢選手の車載カメラが、『ブリヂストン モータースポーツ』に掲載されている。これも一度は見ておきたい内容をもっている。

http://ms.bridgestone.co.jp/hp/bsms_contents?coid=1916

レース結果は、本物の「実戦バトル」とは言い難いものだった。その点、HVの本線企画群サイの『峠・最強伝説』、日本海間瀬サーキットを舞台にした『RACING DRIFT 2012』には、観るものを惹きつける熱さがあった。関わっている人々の熱心さが違う。ベスモDNAが、時を変え、ひとを替え、燃えさかり始めているのが感じ取れるのだ。

次のHV118号では、そのあたりに焦点を合わせてみたい。このごろ、そう思うようになった。