「みんカラ」掲載 2012年6月24日
雑誌メディアに携わって半世紀余……。
創刊1周年、5周年、10周年……20周年、30周年と、それぞれの節目ごとに、そう謳ってメディアは心を奮い立たせ、あるいは読者・広告対策のイベントとして、アピールしてきたものだ。
が、残念ながら近ごろのCARメディアの興亡は、恐ろしく速いスピードで進行し、いくつかの関わり深い、それなりの歴史を紡いできたはずのメディアも、あっさり退場させられている。わが「ベストモータリング」も、2011年4月には消滅してしまった。
その前後の複雑な心境をバネにして、新しくとりくんだのが、当BLOG『つれづれなるままにクルマ一代』。「ファーストラン」と題して、ブガッティまがいのブリキ自動車のステアリングに、両手を添えてカメラに収まった、ぼくのクルマ坊や時代の古い写真を披露したのがスタートだった。
それが2011年6月15日。だから今回のエントリーがちょうどスタート1周年記念の回に当たるわけである。
数えてみると、その間、なんと123回にわたってエントリーしている。つまり3日に1回は、何らかのテーマで「みんカラ」仲間にむかって発信しつづけた計算だ。テーマはその時々で入れ替わっているが、それにしても、それらの日々の交流が、なんとも充実していて、ぼくに新しいエネルギーを回生してくれた。この際にあらためて感謝したい。
そんな気分でいるところへ、6月8日リリースの「Hot-Version」Vol.116が届けられていたのだが、体調を損なっていたこともあって、封を切ったものの、その内容について想いを深めるには至らない。そのまま、10日以上が無為に過ぎてしまった。そんな時は、改めて「Hot-Version」と向き合って、最初から見せてもらうに限る……。
この号の「目玉企画」は、「史上最大の激戦!」と銘打った峠派マシンvs.サーキット派、ストリートチューニングカーによる夢の「バトル・ロワイヤルin筑波」なのだが、前菜代わりに用意してあった同乗体験企画にも、おおいに食欲をそそられてしまった。
HV編集部と「アミューズ」の呼びかけに賛同した有名ショップが、それぞれの威信をかけてチューニングアップしたデモカーの助手席に、2000円で同乗できるというのだ。ドライバーも荒聖治、織戸学、谷口信輝といった顔ぶれだから、これはもう、極上のボーナス。
すぐにピンと来た。編集長は「ベスモ100号記念イベント」(1996年3月号)で大ヒットしたあの企画の再現を狙っているな、と。思い出されるのは、イベントのフィナーレを飾った「ロードスターワンメーク大運動会バトル」と、迫りくる夕闇のなかで催された「同乗走行会」。あの時のキャスターと読者と編集部が一体となった至福の世界。ご記憶の「みんカラ」仲間も少なくないはず。
同乗できるマシンは、このあとのバトル・ロワイヤルに投入されるとあって、顔ぶれは多彩というか、ここでしか体験できない部類の「スーパー・チューニングカー」ばかりである。参加者の感激、興奮ぶりを拾ってみようか。
650馬力のR35GT-Rが赤い矢となって裏のストレートを疾駆する。
「凄いとしか言いようがなかった。ありがとうございました」
助手席から解放された同乗者の声は、喜びにふるえていたし、480馬力のインプレッサの助手席に、「とても楽しみです」と言いながら、志願して縛りつけられた女性の緊張と不安を、カメラは丁寧に捉えていた。
350馬力にチューンアップされたS2000を希望した参加者はまことに研究熱心。
「勉強になりました。車の旋回のさせ方とか、タイヤのグリップの出し方とか、まあ、流石って感じです」
荒聖治クンはスプーンシビックFN2を担当していた。それを同乗者が解説してくれる。
「タイヤもブレーキもつねに限界まで使っているって感じで、それでいていつも安定している。やっぱり凄いな」
「谷口さんの横に乗りたくて……」とハンディカメラを持ち込んだ熱心な青年のうっとりした表情もまた、秀逸だ。アミューズの370Z(380ps)はやわかく第2ヘアピンに進入する。そのポイントでしっかり、彼はドライビングのツボを質問している。
「アクセルとブレーキングしてから慣性を左もってゆくんですか」
「うん、ちょっとかけて、曲がっていく感じだね」
谷口クンもさりげなく説明しながら、コーナーを立ち上がり、筑波での最高速を試せる裏のストレートへ。人とクルマと心が一つになっている。見るものの心が和らぐ、いい場面だなぁ。
トリは織戸学クンというよりは、1番人気の800psのトップシークレットGT-R。
「路面が冷えているから、結構、どこへ行くかわからないよ」
こう言い残してピットを出ていく織戸クン。アクセルを踏むと、エンジン音が吠える。
それが、タイミングが合えば、赤のMCR-GTRとバトルを演じるのだから、もう同乗者は昇天寸前。興奮のあまりグローブボックスを蹴り落としてしまう。それでも「楽しいです」と、細い目をますます細めている。
で、そのまま、この前菜コーナーがメインディッシュであるバトル企画に移っていくのか、と身構えたところで、グループリーダーの土屋圭市が、アシスタントのSATOKOを従えて、登場する。5日前に納車されたばかりのTOYOTA86を、3つのステップでチューニングUPテストを試み、どんな走りの変化をみせてくれるのか、精密にレポートしている。これは必見。
まず、ノーマルのままでアタックする。1分11秒394。それがハイグリップのタイヤに交換しただけで、2秒以上もタイムを削ってしまう。あとは、車高調整式のダンパー交換によってサスペンションを強化するとどうなるか、などと86ファンならずとも惹きこまれる真面目企画が用意されていた。
さて、1000馬力のトップシークレットGT-Rまでエントリーした筑波バトルの検証は、次回に譲るとしよう。