「みんカラ」掲載 4月24日

拍手4 新しくリリースされたホットバージョンVol.115。そのNEWハチロクの筑波アタックは必見である――そこでぼくが目撃し、感じ取った「土屋圭市、降臨」の実況を、次のアップまでお待ちあれ、と大見得を切っていながら、すっかり手間取ってしまい、お待たせして申し訳なかった。

実は、ガンさんの『新ドライビング・メカニズム』の最終仕上げに専念していたためだから、ともあれ、お許しいただきたい。その間、あれほど練馬・千川通りで咲き誇っていた桜もすっかり散ってしまい、今では花びらの絨毯が、その名残りを伝えてくれるだけである。

さて、ドリドリ土屋圭市のドライブする赤いNEWハチロクが、ゆったりとピットロードをはなれ、1、2コーナーをなめてから、S字をゆく。おのれを今の高みにまで導いてくれたハチロクが蘇ったのだ。どんな心境で、この筑波アタックとインプレッションに臨んだのだろうか。

ヘアピン ダンロップ下をくぐり抜けて、開口一番、「タイヤがいいんだろうね、このエコタイヤ、バカにできないよ。クルマって楽しいなって思わせるのがこのタイヤかもしれない。お、扱いやすいなぁ。クルマの動きが穏やかに変わって……うん、どう動くかが手にとるようにわかる。ほめ過ぎだって言われるかもしれないけど、ホントに剛性がしっかりしているから、動きがわかりやすい」と、来た。で、タイムアタックに入った。さっそく、S字でシフトミス! 2速のギアの位置に異和感があったようだ。

ベストタイムは1分11秒394。恐らく、本人は10秒台に入れなかったのをくやしがっているだろうが、当日は直前まで、ほかのドリフト走行会が入っていて、路面がクリアではなかったそうだから、気にするほどの悪いタイムではない。

つづいて、ドリフトインプレッション。各コーナーでドリフトするNEWハチロクの動きを、素直に、無邪気に喜んでいる。それを、カメラも無邪気に追いつづける。

「以前、修善寺サイクルセンターでBMWの2リッターに乗ったことがあるけど、それと同じくらいしっかりしている。うん、今までで一番、インフォメーションのあるクルマじゃないかな」

マシンから降り立ったドリドリが、ひとまずインプレッションを、こうまとめている。

「こういうクルマを出してくれるというのはうれしいね。やはりハチロクの血をつないでいるんじゃないかな。うん、ここからさらによくなると思う」

このあと、企画は今やHVの定番となった2012年モデルのGT-R〈トラックパック〉(550馬力、1470万円)の1番乗りへと移るのだが、ここでは先を急いで、ドリドリを本気にさせるコーナーへ。かつての「ベストモータリング」なら、ガンさんや中谷明彦、大井貴之クンらが加わって、本格的、多角的なフルテスト、バトルシーンへと展開していくのだろうが、ここは土屋クンをメインにするHVである。かつてサーキットを湧かし、2年間で消滅していったAE86によるN2レースの復活劇を仕掛ける……。

dori_tanaguti  筑波N2決戦の日まであと5日。ドリドリは再び筑波サーキットにいた。仕上がったばかりのN2決戦用のマシンと、もう1台、ストリート用のマイカー・ハチロクを持ち込んでシェークダウンにいそしんでいた。

真っ白なボディカラーのAE86に鞭を入れる。コンスタントに1分6秒台で周回している。第2ヘアピンを立ち上がり、最後のストレートから、100R の最終コーナーをめざす。

惚れ惚れとした口調でドリドリが語りかける。

「古いけど、よく走るよ、いいクルマだな。いやぁ、ハチロクはその気にさせるね。これねェ、新旧対決したくなる、今度のハチロクと!」

と、そのドリドリの想いに呼応するかのように、たまたま筑波サーキットにきていた谷口信輝選手が、その「新旧対決企画」に乗って、挑戦状を叩きつけてきたのである。

「土屋さんの《趣味の86》は速いね、6秒台とは。よし、近く、ぼくの新しい86が来るから、土屋さんのこのマシンと勝負したい! ぜひ、よろしくお願いします」

嬉しそうに頷くドリドリだった。

「おれのは、1980年代のクルマだよ。やつけてやる、うん!」

画面が変わる。スリックタイヤを与えられたN2ハチロクがシェークダウンのためにコースインする。タイヤが温まったところで、ペースアップ。が、まだ滑るらしい。頃合いを測っている様子を、車載カメラが忠実に伝える。足元のアクセルワーク、ブレーキングワーク。参考になる。これも必見だ。そして、1分01秒710をマークする。

「足が硬いなぁ」

ピットイン。メカニックに症状を訴える。ジャッキアップして、タイヤをチェックする。摩耗の具合から、接地面のアンバランスを探り当てる。車高、キャンバー、減衰力を少しずつ調整し、コースへ復帰する。20周、30周。なかなかタイムは縮まらない。走る。とにかく、ドリドリが走りこむ。

「だんだん分かってきたぞ、ハチロクN2の乗り方が。身体が思い出してきたね」

ヒールアンドトゥ2  画面に緊迫感が醸し出される。

「ブレーキの踏み方、リリースの仕方。アクセルの入れるタイミングとかね、ハチロクならではの……こういう軽いクルマの乗り方を忘れてたよね」

こう語りだしたあたりから、土屋の走りが激変した。エンジン音がひときわ高まり、シフトチェンジするリズムにキレが加わった。明らかに、かつての土屋圭市が覚醒していた。ナレーションがダメを捺す。

「……まるでベストラインを駆け抜けるもう一人の自分を追いかけて行くような走り。1本の線がピーンと張った状態。そんな張りつめた走りから、ついにこの日のベストタイムが生まれた。1分00秒955。タイヤは周回を重ね、グリップレベルは相当に落ちているはずだが、そんな状態でも、サーキットでは必ず何かを起こしてくれる男。あのころの土屋圭市が帰ってきた。やっぱ、それでこそハチロクのお蔭かな?」

舞台は一転。ホテルの一室で私服姿の土屋圭市が、N2決戦へ臨む心境を語りだす。このテのシーンは何度か見ている。彼が「ハコ乗りの名手」と謳われていた時代、さらに上を目指してF3に挑んでいったときにも、こうやって自分の想いをあえてさらけ出したものだった。静かに心の牙を剥く――実は、それが土屋圭市の素顔である。

「アマチュアだろうが、プロだろうが、レースに憧れた奴らにとって、その時代、いろんなレースがあったけど、ハチロクは別格、とびぬけた存在感、オーラがあった」

最終コーナー にもかかわらず、土屋がやっと挑戦すべく準備ができた7年前、突然、消滅してしまったのがハチロクのN2レースだった。いわば彼がレース界に忘れて来たもの、味わえなかったもの、それを、この「筑波N2決戦」で取り返そうというのか。

「そりゃあ、今風のGTウイングをつけたマシンにはかなわないかも知れない。負けてもいい。でもボクはあえて、当時のままのシルエットで走りたい。それでGTウイングのやつらにどこまで太刀むかえるか。その面白さを伝えていきたい」

それを実証する「実戦バトル」が、丁寧に収録されていた。ディレクターを確かめると、やっぱり仁礼義裕クンだった。内容も熱かった。走り終えたドリドリに観客は惜しみない拍手を送っていた。13台の86ファイターと闘いながら、いつの間にか降臨していくドリドリ。結構、観ているこちらも熱くなってしまう。ぜひぜひ「AE86筑波N2決戦」を、味わってほしい。

土屋圭市、56歳。もっと、もっと牙を剥け! キミに異端児のままでいて欲しい。そんな身勝手なエールを、ぼくはキミに贈る。