「みんカラ」掲載 2012年8月14日

prot_sports_b 新着のホットバージョンのVol.117。そのオープニングシーンとナレーションが、ひどく気に入った。なぜだろうか。

ヘビーメタルなメロディーを効果音にして、『Kuruma』と流麗に描かれた白抜きの文字が、浮かび上がる。そして初めて見るレーシングカーが、スローモーションで走り出す。

――来年、日本のモータースポーツがもっと面白くなる。それが、インタープロトシリーズ。純日本製のミドシップレーシングカーによるワンメークレースだ。

そのマシンがどんなポテンシャルをもっているのか、富士スピードウェイで、土屋圭市が試す!

interproto_c 土屋圭市が、コースに飛び出すシーンに入る前に、プロモーション用の映像と重ね合わせながら、およそ3年の月日をマシン開発に傾注してきた関谷正徳氏に、そのコンセプトを語らせている。

「このクルマのコンセプトが、基本的には誰でも乗れて、まあ、あとは誰が一番速いのかを見極めるのが狙い。ハードに隠れて、ほんとうは誰が一番速いのかわからないスポーツなんで、それの決着をつけようよ、というのも狙いです」

そこで考えた。1台のマシンにプロとアマチュアのドライバーがエントリーして、世界初のプロアマで競う、同日2レースを開催しよう、と。が、これでは、なんのことやら、判る人は少ない。

「最初にアマのジェントルマン・ドライバーでレースを楽しんでもらえて、そのあとお客さんのためにプロのドライバーがガチンコレースをする、というイメージです」

sekiya エンジンはV6、4リッターで、車高の低いレーシングカーに採用されるドライサンプ方式が採用され、340ps.を発生する。特徴としては、なるべく多くの日本製パーツを採用する。ミッションはフォーミュラーニッポンでも使われているシーケンシャル6速MTを採用して、ランニングコストの軽減をはかった。

車重は1050㎏。タイヤはGT300でも使われているYOKOHAMAのスリックを採用。シャシーはカーボン・コンポジットとパイプフレーム。ボディカウルはカーボン。

いよいよ、土屋圭市がレーシンググローブに指をなじませながら登場。マシンの状態はほぼシェークダウンのレベル。来年、この富士スピードウェイを舞台に、シリーズ4戦が行われる予定だというが、これからステアリングを握る、土屋圭市のこころに、このメイドインJAPANのレーシングカーが、新しい火を灯すことができるのだろうか、見る側は思わず膝を乗り出す……。

ガレージの中で、土屋がエンジンスイッチをおす。ゆっくりとピットロードに滑り込むマシン。ウィング類はいっさい、装着されていない。

「ハンドルが軽いな」

それが彼の第1印象だった。1周のウォームアップが終わり、アタックに入る。観客のいないFWSの長いストレートを、クォーンとエンジン音を残して第1コーナーをめざすショット。久しぶりだな、こんなテスト光景を見るのは! 胸にキュンときてしまう。

車載カメラが第1コーナーに飛び込むマシンの動きを、あからさまに教えてくれる。ブレーキングでふらつくのを、ステアリング・ワークで抑え込んでいる。Aコーナーから100Rへ。そしてヘアピン。タイヤの滑りを微妙にコントロールさせられている。ナレーションが盛りあげる。

「空力パーツが少ないため、ドライバーに課せられる負担はそれだけ多くなる。まるで現代に復活したマイナーツーリングの感じだ」

1分51秒41のラップタイム。速さは気にしてないと言っていた関谷代表が、タイムを見て「バッチリです。いいですよぉ」と、カメラに向かって、指でマルをつくるという人間臭い仕草。これだよね、映像媒体の使命は。

土屋圭市もエールを送る。

「関谷さんチのKuruma、乗ってみましたけれど、やっぱりレーシングカーは面白いねぇ。気持ちがいい。スコーンと100Rは入っていけるし、そのあと羽根がないんでふらつくけど、扱いやすい。なんといっても、電子デバイスに頼るんじゃなくて、自分の腕を試されるのが面白い」

ナレーションも、こう締めくくる。

「もしかすると、ドリドリの出場もあるかもしれない。そんなインタープロトシリーズ、来年は注目だ!」

hv117 このインタ―プロトシリーズの車両とシリーズの概要紹介は、3月末にはすんでいた。また谷口信輝君によるデモ走行映像も見ていた。が、もう一つ、ピンとこなかった。が、こうやってベスモ遺伝子を駆使した映像つくりで表現されると、なぜこんなにわかりやすく、心が弾むのだろう。そこのところをお伝えしたくて、かなり丁寧に『緊急アタックもの』に焦点を合わせたのだが。このメイドインJAPANのレーシングカーによるワンメークレースのスタートには、もう一つ大きな狙いがあるらしい。1台のキット販売価格は2200万円。半端な値段ではない。しかし、御殿場レース村にとって、大きな仕事である。職人技の見せどころでもある。モータースポーツに火をつける試みとして、関谷代表たちが確実に取り組んでいるのを、ホットバージョンがこういう形で貢献できるなら、それこそがメディアの生命であるはずだ。峠魔王、結構。ドリフト・マッスル、それもいいだろう。が、本来果たすべき役割を、この号のように果たせるなら、もっと後押ししたくなる。

この号、もう一つ、モータースポーツ振興に力を貸していた。高橋国光、中嶋悟、鈴木亜久里、土屋圭市たちがFITのレースカー仕様で激走する『レジェンドドライバーズ』と題した「実戦バトル」が用意してあった。それは次回アップで詳報したい。いやいや、近しい「みんカラ仲間」の一人が、こんな心境を伝えてくれたので、ぜひ参考にしていただきたいので紹介しよう。

「新作を自費で手に入れる喜びはいつの時代も変わらない。とにかく新作を買う。ホットバージョンのみならず冬の時代の車雑誌業界において、その愛読者が唯一できることである。AKBのCDを1人ウン千枚買う強者がいるらしいが、そのお金、どうかこの業界に回してほしいものである」

そんな読者たちの輪が、ベスモなきいま、HVを中心に広がる日の訪れんことを、夢見たい。