~ああ、ハチロク慕情 第2幕~

OLYMPUS DIGITAL CAMERA ホットバージョンVol.119について、うれしい情報を、販売元の講談社サイドから入手したので、こっそり「漏洩」しちゃおうかな。

「この号は特に売れ行き好調。TUTAYAから追加注文があったりして、刷り増しします!」と――。

さっそく本田俊也編集長に、「よかったね。光が見えてきたじゃないか」と、祝いの電話をいれたところ、「そうなんです。めったに褒めない土屋さんからも、いい出来だったぞ、といわれまして……」と、弾んだ声が返ってきた。全国のあちこちで品切れ店が出はじめている様子だ。かつて、べスモが大躍進していったときと同じ前向きな雰囲気である。べスモDNAを絶やさないためにも、みんなで応援しようじゃないか、といってくれている「みんカラ」仲間には、まずはお礼をかねて、報告する次第である。

AE86 FB TOP ところで……、本田編集長との電話のなかで、こんなお恥ずかしい指摘を受けてしまった。

「前回の《ああ、ハチロク慕情》で姉弟の悲願という設定になっていましたが、あれは、逆です」

「え!? 逆だったとは?」

「小泉亜衣さんは妹で、孝太郎さんがお兄さんですよ」

小生、絶句。勝手に描いていたドラマの構図が足元から崩れていく……。

AE86岡山N2決戦-土屋 これでお判りだろうが、映像を見ているうちに「ハチロク慕情」のヒロイン、Car Factory Aiの主宰者である亜衣さんを、何一つ予備知識のなかったぼくは、すっかりチーム・ドライバーである孝太郎君のお姉さんと思い込んでしまっていた。ひたむきにハチロクに生甲斐と情熱を注ぎ込むその根っ子に、弟をなんとか一人前にしてやりたいと願う姉の想いと深く重ね合わせていたから、涙が出るくらい感動していた。そして、焦点をそこに合わせてくれたこの企画のディレクターはだれだろう、やるじゃないか、と思ったくらいである。

そうか、亜衣さんは妹だったのか。それも不思議な構図だな。妹がマシンを創りあげ、チームを運営し、兄をドライバーとして走らせる。はじめての構図である。むしろ、これまでにない新鮮な好奇心が湧いてきた。で、早速、宝塚市にある「カーファクトリー亜衣」のWebサイトにお邪魔してみた。あるある、ちゃんとご本人の写真入りで。

「当店の社長業もさりながら、営業、家事、育児もこなすハイパー主婦です。(笑い)」

まいったね、ハイパー主婦だって。これはもう、ご本人に直接、伺ってみなくては……。

ところが残念ながら、2度、連絡をとってみたが、どちらも亜衣さんは留守だった。やむなく弟の孝太郎さんの連絡先を訊いて、そちらへ電話を入れることにした。12月9日の筑波ロケでも会話しているし、いまでは「みんカラ」のお友達でもある。聴き覚えのある明るい声が出た。

「あなたも人が悪いね、ぼくがあなた方を姉弟と取り違えていたのに、知らぬふりをして……。いってくれればいいのに」

「あ、は、は。よく間違えられます」

二つ年下、学年では一つ下だというが、すべての面で亜衣さんは姉にちかい存在だという。

「ところで、この電話の局番、026って、どこですか?」

「長野です」

あれ? 土屋圭市も同じ長野県出身だよ。

「あ、土屋さんは小諸に近い東部町でしたね。わたしは長野市内でカーショップをやっています」

だんだんと小泉兄妹のスタンスがわかってきた。長野市の大学を出た後、孝太郎さんはそのまま長野に腰を据えて、CARショップをはじめたという。折からAE86がカーガイたちの人気の的となっていた。あるとき、ハチロクの納車で長野から関西方面へ自走する際、妹の亜衣さんに手伝ってもらう。以来、亜衣さんはハチロクにぞっこん。板金関係に勤めたこともあって、すぐにレース活動をはじめてしまう。もちろん、ドライバーとして。やがて関西では知られた女性ドライバーになっていく。そして、いまではカーファクトリーを切り盛りしながら、シビックやロードスターのレースにも出場しているほどの、スキルの持ち主に成長し、悲願であった、土屋圭市に乗ってもらえるハチロクN2マシンを用意するところまで、漕ぎ着けたわけであった。

その朝、岡山国際のピットに、ドリキンが登場、逢いハチロクの初テストがはじまった……。

その朝、岡山国際のピットに、ドリキンが登場、逢いハチロクの初テストがはじまった……。

ここまで知ってしまったからには、改めて『ホットバージョン・AE86岡山N2決戦』を、土屋圭市のテストシーンから鑑賞しなおすしかないじゃないか。 ――決戦を翌日に控えた9月22日の岡山国際サーキット。亜衣さんたちの熱い想いのつまったマシンは前日の夜に完成。スタッフとともに土屋を出迎えるシーンからはじまった。

ピットロードからマシンが土屋の前に現れた。すべてが土屋のためにつくられたNewマシン。頤を撫でながら、土屋が初対面の感想を漏らす。

「カッコいいよ。つくり方が奇麗だね」

スタッフ総勢13名で、テスト走行のミーティング。いよいよ、亜衣さん悲願の土屋圭市によるN2決戦がはじまった。

「仕上がりはいい感じなんです。あとは土屋さんにアシを煮詰めていただいて、エンジンは結構噴けているので、どんな感じなのか、難があったら詰めていって、より好いタイムが出るように、仕上げたい」

亜衣さんははっきり言い切る。こんな目の輝きをした女性が、他にいただろうか。

 

いよいよ、TRDのカラーリングが施されて、ヘッドには桜井カム仕様の収まっている、マシンに土屋が乗り込んだ。わずか1日で、このN2マシンを手なずけなければならない。土屋がかつてはTIサーキット英田(あいだ)と呼ばれていたここを走るのは、2003年のGT以来だという。9か所のコーナーでレイアウトさえた全長3700m、中高速主体のコースである。「ハチロクはいいね~、燃えるね~」車載の録音マイクが土屋の呟きを捉える。徐々にペースを上げていく。しかし左コーナーでエンジンが噴けない症状がでる。そしてタイトコーナーで、オーバーステアが強い。格闘する土屋のステアリングワークが、率直にマシンの状態を伝える。

見守る亜衣「3速コーナーが全部噴けない!」ピットインしてチーフメカに訴える土屋。

すぐに対応する亜衣ちゃんクルー。チーフメカの工場長の診断は「ガスが濃い」というものだった。目標馬力に必要なガソリン量を減らしたくないため、キャブレータ―自体を口径の大きいものに交換した。

再び、コースイン。今度はどうだ!? オーバーステア対策でリヤのダンパーを調整したが、オーバーステアはまだ強いまま。タイムは目標である1分42秒台に対して、44秒台半ばあたりで走行している。

ピットインして、対策を話し合う土屋。こんな時の土屋のコメントにに一切、妥協はない。そして厳しい。それを亜衣ちゃんとチームクルーがどう受け止め、どうスピーディに手を打っていけるのか。いや、いや、見ている方も、すっかり惹きこまれてしまう。

 

3度目のコースイン。気のせいか、エンジン音がいくらか、パワフルになっているものの、噴けない症状はまだ消えない。と、思わぬトラブルが発生してしまう。バックストレートへの上りで、条件反射的におこなった「クラッチ蹴り」。これでミッションがあっけなくブローしてしまう。

岡国レイアウトガラガラといやなエンジン音とともに引き揚げてきた土屋がマシンから降りた。テスト走行は、ここで終わった。明日の本番は、いきなり予選に臨む。新しいミッションに交換できたとしても、不安を抱えたままの出走を余儀なくさせられた。

一夜が明けて――。予選がはじまった。土屋がゆったりとコースイン。折を見て、最初のアタックに入った。ミッションは交換したものの、前日のテストでは44秒台に終わっている。モニターを見上げるスタッフ。緊張感が張り詰める。どうやら、左コーナーの息継ぎはない。お、来た~! 目標の42秒台をあっさり叩き出してくれた。が、すでに41秒台に入ったマシンもいる。タイヤ温存のため、ギリギリまで抑えていた土屋がラストアタックに入った! その様子をホットバージョンの技術陣が丁寧にとらえている。これは必見だ。5速から一気に2速までのシフトダウン・ワークのキレ。

さて、予選の結果は? 亜衣さん・孝太郎姉弟の悲願の行方は? ここからは次項『N2喧嘩バトル』でどうぞ。