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大胆企画!東洋ゴム「トランピオ4D」テスト試走会をニュルでやる
■機内のスクリーンに大写しされる「フェラーリ炎上」シーン 

 ヨーロッパに飛ぶのは6度目になるが、ルフトハンザ/ドイツ航空を利用するのは、初めてである。言葉の通じないドイツ人スチュワーデスに、さぞかし悩まされるのではないかと危惧していたが、なんのことはない。大阪発、成田経由のフランクフルト行き定期便には、日本女性がちゃんと用意されており、なんの不自由もない。まるでJALにでも乗っているようだった。
 違うのはレカロ製のシート。こいつはひどく快適で、16時間を超える長旅も、なんとか耐えられた。加えて、ぼくの心を弾ませてくれたのは、アンカレッジを出てから上映されたニュース番組「ルフトハンザマガジン」のイントロ・シーンである。

 疾走するフェラーリのF1マシンがガードレールに接触、そのまま右側の丘にむかって弾かれる。クラッシュ。炎上。タンカーで救出されるドライバー。

 このシーン、記憶にある! 76年のドイツGPでニキ・ラウダが演じたあの悪夢の惨劇ではないか。そして、その凶々(まがまが)しい舞台こそ、これからぼくらが挑戦しようとするニュルブルクリンクではないか! なぜ、今頃そんな映像を流すのだろうと首をひねった瞬間、場面は一転し、お祭り気分の明るいサーキットが大写しされ、クラシックカーのパレード。その中にラウダの笑顔も見える。
 7年の歳月をかけて、ニュルブルクリンクは変身した。1周22・835キロメートルの旧コースはそのままに、あたらしく4・542キロメートルのモダンなサーキットが誕生したのだ。安全性を確保した広いグリーン。アウトバーンから駐車場まで直結された高速路──。

 5月12日のオープニング式典が、嬉しいことに西ドイツではどんなニュースより優先するというわけだ。

 そのサーキットで、もうすぐぼくは走れる。心が昂る。偶然とはいえ、まるでドイツがぼくらを歓迎してくれているみたい。
新しく誕生したグランプリコースに立つ F1はここで開催
 新しく開発した高性能タイヤ「トランビオ4D」を、ぼくら自動車ジャーナリストに、ニュルブルクリンクでテスト試走してみないか、とメーカーの東洋ゴムが誘ってくれた。大胆だな、凄い自信だな、と率直に思った。あのリンクに耐えられる性能なんだろうか。

  そして、ぼくのドラテクで大丈夫かな、と少し心配になった。でも、かつて一度だけ(一昨年のWEC観戦)バスで垣間見た、あまりにも美しく、そし苛酷なサーキットの魔力には勝てなかった。
 専有走行できると聞いて、否応もない。荷物になるのを覚悟の上で、ヘルメット、レーシングスーツなど一式を、旅行バッグに詰め込んでしまったことから、ぼくの浮かれようを想像してほしい。

NEWリンクとOLDコースで2日間、走り満喫の試乗会

 5月20日と21日の2日間、ぼくらはたっぷりとニュルブルクリンクのNEWとOLDの両リンクのそれぞれ異なった魅力を満喫した。
 用意された6台の高性能マシンは次の通りで、見合ったサイズの「トランビオ4D」が装着されていた。           
▼アウデイ・クアトロ(205/60R15)
▼ポルシェ944(215/60R15)
▼ベンツ190E(195/60R14)
▼BMW323i(195/60R14)
▼ホンダCR-X欧州仕様(185/60R14)
▼三菱スタリオン欧州仕様(215/60R15)

 初日は快晴。使用コースはお披露目がすんだばかりのNEWリンクであった。ピットは2階建てに改装され、コントロールタワーも全コースが鳥瞰できる高さになった。すべてが様変わりしている。観客席には日曜日とあってか、500人近いギャラリーがそぞろ歩きを愉しんでいる。そして、極東の遥かな国からやってきた連中の、6台だけの奇妙なレース(?)に声援を送ってくれるのだ。
わざわざヘルメットを持ち込んで「いざ!」
 持ち時間は20分。1周4・542キロメートルをクアトロや944は2分20秒前後で駆け抜けていたから、最低7周はできる。参考までに、ポルシェのバイザッハR&Dのコンピュータがはじき出した予想ラップタイムをお伝えしよう。Flマシンで1分35秒13(平均170・1q/h)だという。カーブ数は14、右回りが8、左回りが6、高低差はあまりなく、第1ヘアピンを88・5q/hでクリアし、3・5q地点からのストレー卜で、286・8q/hで駈け上がる計算である。

 このサーキットの諸元表でみる限り、かなりの高速サーキットといえる。で、実際はどうか。最初に割り当てられたスタリオンはDIN170ps/5500rpmと巨大なパワーを発揮する。軽く2ラップを流し、最終コーナーを立ち上がるところで本格的にこの大ぶりな挙動をもつマシンで「4D」を攻めることにした。
2日目は悪天候 東洋の部長も心配そう
 アクセル全開! 左にメインスタンド、右にピットを見ながら直線750m、デジタル速度計が170に達したところで第一コーナー、減速、4Dはきれいに車速を殺してくれる。右へ大きくステアリングをきると、スキール音を発するものの、限界を報せる悲鳴ではなく、快いサウンドだ。応答性も横剛性も悪くない。

 こいつはいける! それが4Dの第一印象である。レーシング仕様でもないのに、まるでスタリオンのP仕様にでも乗っている錯覚に陥ったほどだ。

 第1ヘアピンから第2ヘアピンまでは下りの高速ライン。4速までシフトアップしたところで第2ヘアピンのCPを狙って2速に落としながらのブレーキング。そして、柔らかくアクセル・オン。スタリオンのテールはずるりと左へ振り出し、立ち上がりの挙動にどこまで対応できるか、ぽくを試そうとする。

 ステアリング操作で、ぼくは踏んばる。4Dがそれを助けてくれる。これが、東洋ゴムの開発者が「4Dは人間が動物である部分を剥き出してくれますから、どうぞ、そこのところを味わってください」と、耳打ちしてくれた〈正体〉がこれか!

★悪魔のリンクを実況報告
「悪魔のリンク」とは、よくぞいってくれた。初日はレーシングドライバー気分で、日本人で初めてのNewリンク走行を愉しんだぼくらにとって、2日目の雨と霧は、衝撃的な舞台装置となった。
 OLDコースは一周22・835キロメートル。もしもどこかでクラッシュでもしたら、救出作業に時間がかかる。まっぴらご免だ。走行路は、まるでロマンチック街道か、日本でいうなら奥蓼科あたりの雰囲気で、ヒマラヤ杉を中心とした森の間を縫うように上下している。176のカーブが牙を剥いてぼくらに襲いかかる。

その辺のところをCR-Xを駆っての実況レポート風に──
雨と霧で僕らを弄んだニュルのオールドコース
「悪魔のリンク」とは、よくぞいってくれた。初日はレーシングドライバー気分で、日本人で初めてのNewリンク走行を愉しんだぼくらにとって、2日目の雨と霧は、衝撃的な舞台装置となった。
 OLDコースは一周22・835キロメートル。もしもどこかでクラッシュでもしたら、救出作業に時間がかかる。まっぴらご免だ。走行路は、まるでロマンチック街道か、日本でいうなら奥蓼科あたりの雰囲気で、ヒマラヤ杉を中心とした森の間を縫うように上下している。176のカーブが牙を剥いてぼくらに襲いかかる。その辺のところをCR-Xを駆っての実況レポート風に──

「えー、ただいまピットを飛び出してから最初の下りのS字にさしかかりまァす。軽くブレーキング。きれいに回ってくれますね。えー、3速にホールドしたままS字を左へ。カーブGの看板です。1キロメートル地点通過。ガスが流れてきます。またS字。林の中を抜けます。3速にして、下りはじめました。見晴らしがいいなァ。右が原っぱ、左が畠。ブリッジを渡ります。あ、バタつくなあ。25の看板をみて、駈け上がる。はい、ストレート。路面はニュルニュルだなあ。右へ大きく曲がります。減速します。おいおい、どこへ行くんだ。わあ、ガードレールが近づく。助けてくれ。ふーッ。止まってくれたか。腰がひけるなあ。この程度のコーナーでスピンしたんじゃ、先が思いやられるよぉ。(中略)メーターは150。下ります。前が見えねェな。53の看板でーす。2速に落とす。右に町が見えてきました。はい、左に大きく回って、右へ上がっていって、よし、いいストレートだ。64の看板です。あ、ここでラウダのフェラーリが燃えたんだな。大して難しいところじゃないのに。あれ、また右回りか。難しい、難しい。こけるなよ。さて、カルッセルの谷はまだかな。長いなあ。あ、背後から1台追いかけてくるぞ。クアトロだな。誰かな。長い上りのストレート。150、155、160! まるでゴルフ場のフェアウェイを走ってるみたいだぞ。あれ、うしろのクアトロ、ウインカーを出して、こちらをパスしようとしています。津々見(友彦)さんか。どうぞ、どうぞ。左へ軽く切って、右へ持ち出して。11キロメートル地点か。コカコーラの看板を、右へ回って、はい2速に落とす。これか、カルッセル(大逆転の意)の谷は……きれいな樹だな。林の中を下ります。うわっ、凄いや。路面に枯葉が……。ガスで先が見えないぞ。こわい、こわい。よし、よし、それでいい。タイヤが硬いな、この路面じゃ、皮むきもしていないのはきついよ。昨日のままにしてくれればいいのに畜生! きついよ、この下りは。ウェット性能は思ったより悪くないぞ。さあ、最後のストレートか。行け、行け! 160、165、170……オーバーブリッジ、ブレーキング! はい、ご苦労さん……」

 というわけで、タイムは13分15秒台。冷汗びっしょり。とにもかくにもマシンを壊すこともなく、たどり着けただけでひと安心だった。

★リンクにF1が帰ってくる!

 小気味よいフットワークを誇るCR-Xでスピンしたのがよかった。クアトロ以下、ほかのマシンでは丁寧に周回したこともあって、雨と霧の悪魔のリンクをどうにか克服できて、試走会は無事終了。

 クアトロのぼくのタイムは12分03秒、あの津々見友彦さんが11分34秒だから、1qにつき1秒ほど遅いタイムは、まずまずと納得したが、清水和夫さんあたりの速さといったらない。最後のストレートのオーバーブリッジでは5速全開で駆け降り、200q/hを記録するのだから、別次元の話だ。

 別次元といえば「4D(ディメンション)」というネーミングは4次元からきている。空間という三次元に速度(時間軸)を加え、人―メカ(タイヤ)―地形の一体化したパフォーマンスの意味をこめたという。なるほど、思う。速さに追従するだけでなく、タイヤが速さと一体化して、ぼくらのニュルブルクリンク試走会をなんのトラブルもなく終了させてくれたのだろう。
無線交信で「安否」を確認?
 ただし、残念なことに、比較用にとり寄せるはずだった「トランピオC―2」タイヤが届かないため、サーキットというミューの高い条件下で従来品と比較できなかった。たとえばコーナー立ち上がり速度の違いなどを味わいたかった。ま、その辺は徳さんの本格的レポートに譲るとして、ぼくの場合、どうしても「熱走報告」にウェイトがかかってしまう。
 最後に──ヨーロッパF1グランプリはニキ・ラウダの事故以来、8年ぶり、ニュルブルクリンクに帰ってくるという。                          (ベストカーガイド/1984年8月号)

 付記すれば、このあと944でハイデルベルクに遊ぶ。その途中のことだ。アウトバーンが突然、動かなくなった。やっとのことで前へ進みはじめた。と、路肩にぼくらの試乗したCR-Xが哀れにも潰れていた。渋滞のもとはその事故だったのだ。ドライバーはまったく無傷だったが、それがこの4Dの開発エンジニアだったのには、あっけにとられた。

●ALUBAMより
戯曲「学生公子」の舞台・ハイデルベルク ネッカー河畔にかかった美しいアーチ橋 「アルトハイデルベルヒ」を歌いたくなる
ラインの流れとローレライの岩 ニュルにもっとも近い温泉町バドノーエル 夜毎?食事の際もバンド入り

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