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| 落ち葉舞うミラノ郊外のテストコースを訪ねてから1年が経って…… |
■「ヴィッツォーラテストコース」の記憶 どこがクレイジー」だったのか
ラウレリア嬢のいう、どこが「クレイジー」なのかは、結局、書いていない。読者からも「次回へ」はどこに行ったのか、と揶揄われたりして、それに応えるつもりで、一年後に「ベトスカーEXTRA」に掲載したのが『感傷的ピレリ論』である。蛇足ながら、当時のメモも記録しておくこととした。
スプリンクラーが絶え間なくまわり、コース全体が水深30ミリの雨降りと同じ状況を再現していた。1周500メートルか。まず自動車教習所によくあるような小高い丘を右回りで越え、130Rくらいのはコーナーをクリアするとシケインが待っている。その奥が山中湖・籠坂峠の最終ヘアピンを思い起こさせる10Rののぼりコーナーだ。
ドライの状態でもかなり厄介なのに、超ウエットで、どうなることやら。そのコーナーをUターンすると60Rのコーナーを経て、短い直線へ。スタート地点にやっと戻る仕組みである――。
ちょうど1年前、この奇妙なサーキットにぼくは挑戦した。ピレリ社が日本市場進出10周年を記念して、自動車ジャーナリストをミラノへ招いたときの話だ。そのプレスツアーの一員として、ぼくも加わったわけだが、こってりと、ピレリ・タイヤのプロダクトコンセプトと先進性、優秀性を叩きこまれた。が、話だけでぼくらが納得するわけがない。 |
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| じゃあ、実証してみせよう、と貸切りバスを仕立てて、ヴィッツォーラへ送りこまれたものだ。 |
ヴィツォーラ・テストコースのコントロールタワーからは、
遠くアルプスの白い峰々が臨めた。
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| 生きたタイヤを開発するための「水上バトル」に秘密あり |
通称ヴィッツォーラ。ピレリ社のタイヤ・プルービング・グラウンドである。
アウトストラーダを下り、アカシアの森を抜けた。と、四方を丘に囲まれた窪地の奥に、赤と白の積み木を重ねたようなコントロールタワーが見える。コースは、ごく自然なたたずまいといえた。走行路には、風に吹かれてアカシアの落ち葉が舞っていた。路面が鈍い光沢を放っているのは、一般路に近いからだろう。
「その通りだ。ここは考えられるすべての道路パターンが収められている。一般ドライバーが一般路を走るような状態でテストしないで、生きたタイヤが開発できるかい?」
と、ピレリー社の広報マンは胸を張って解説した。走ってみなければわからないが、ともかく人間くさく、自然のままなのだ。
タイヤテストには各種のパターンが用意されていた。ウエットブレーキテストは車速を70q/hにキープし、指定地点でフルブレーキングして、制動距離を測定する。コンフォートテストはパイロンスラロームで試みる。しかし、圧巻はウェットハンドリングテストであった。
奇妙なサーキットランがじつはこのテスト、というわけだ。提供車はオペル・カデット1・3Sが2台、最初はP3、あとはP8に履きかえた。
P3(155/SR13)は快適性と耐久性が自慢のベーシックタイヤ。2速にホールドしたまま、コースを1周しておどろいた。各コーナーを水飛沫をあげながら、オットットの大カウンター大会。とくに難儀したのはヘアピン・コーナーよりスタート地点を通過してからふたたび小高い丘へ右折しようとする際の張り出したコーナーであった。ガツーンとブレーキングをしてもカデット1・3Sはそのままいってしまい、大きくふくらんでコーナーをクリアするブザマさをさらけ出す。それになんとコンピュータ計測でラップ・タイムをとっていたのだ。
となると、いささか熱くならざるを得ない。ピレリーのテストドライバーたちが47秒台だという。で、ぼくは3周目に51秒02がベストラップ。
さればP8でベストタイムをだそうじゃないか。175/65SR14のP8に履きかえて、ぼくは目を剥いた。たとえば、丘を下って130Rにつっこんでもオットットとならない。まるでベンツのアンチロックブレーキシステムを装着したみたいに水溜まりのコーナーでもタイヤが効いてくれる。となるとP3の体験からいささか恐怖心に駆られていたドライバーの両腕から、確実に力を抜いてくれる。これなら何周でもいけそうだ。タイヤを替えただけで、同じ滑りやすい状態でのドライビングがこんなに楽しく感じられるものなのか。
タイムの方は? 意外にも伸びていなかった。どうやら、P3の場合はコーナーでとっちらかっても減速できないでクリアするから、タイムはいいわけだ。しかし、それはドライビング本来の目的からいえば、いいことではない。圧倒的にドライバーの疲労度が違う。
P8は、ピレリーのプラスワンコンセプトによる偏平タイヤのテクノロジーが、ふんだんにもりこまれたタイヤである。特殊コンパウンドにより、コロがり抵抗を低減させ、高いレベルのコーナリングパワー、ステアリングへの応答、そして走行の安定性を得ているというが、それはドライ状態の外周路ランでも味わえた。
「そうだろう。われわれはただ単に先進性だけをねらってワイドタイヤを開発してきたわけではない。ドライブにおける人間の感性を大事にしているのさ」
アカシアの森をざわめかせ、コースを渡るミラノの風に、自信たっぷりなピレリーの人たちの声を、ぼくは聴いた。ヴィッツオーラの体験がそれからのぼくをかえた。タイヤ、足回りにやたら気配りするようになった。それにしても、タイヤ開発ほど矛盾した事象を同時に克服しようとする不思議な作業はない。グリップがよくて乗り心地がいい、燃費も高効率に! そんなものあるかい? ピレリーがそれを回答している。 (この項終わり)
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