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スポーツカーの芸術品
ポルシェはこうして磨き抜かれている!
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■新しい恋人944に逢えるだろうか
ポルシェ944が、この秋、わが国でも市販される。924カレラGTのシャシに、100%ポルシェ製SOHC4気筒エンジンを積んだという。かたくなに、スポーツカーの極限を追い求めるポルシェ社では、80年代にもっともフィットしたスポーツカーの自信作第1弾と謳っているが、そんなに凄い奴なら、当然、すばしっこい並行輸入グループが、1台や2台はとり寄せて、総輸入元の「三和自動車」に地団駄を踏ませているはず。
が、残念ながらそんな情報も耳にしない。ポルシェ928、BMW‐M1、メルツェデス500SELなどは、ヨーロッパ発売直後にはこちらでテスト・ランできたものだ。その熱気が944にはない。それほど魅力あるクルマではあるまい――これが実際に944に試乗するまでの、ぼくの単純な予測であった。むしろ、ジュネーブ・ショウで発表された911SCカブリオレに、なんとか試乗できないものか、心はそちらにあった。
シュツットガルト。舌をかみそうな、いかにもドイツらしい都市名をもつこの街には、ポルシェ社のほか、ダイムラー・ベンツ、ボッシュ、IBMなど世界的に有名な企業がある。 ☆ ☆ ☆ ☆
ぼくらを乗せた「ヨーロッパ特急」が終着駅シュツットガルトに滑りこんだのは、5月23日の午後3時。濃い緑が古い建物をすっぽり包み、それが雨に濡れておだやかな歴史を経た街のたたずまいを強調していた。当初の予定ではミラノから空の旅で西ドイツ入りするはずが、ミラノ空港管制官のストライキで、願ってもない汽車の旅となった。
コモ湖を過ぎるとアルプスの山峡を縫ってハイウェイが右に左にチョッカイを出してくる。雪を頂いた険しい山肌。氷河。あれはアイガーか。3人ずつが向かい合うコンパートメント(個室)からの眺めは抜群だ。
チューリッヒを経由して6時間の旅が終わり、ポルシェ社が用意してくれたアメリカ式のホテル「ホリデーイン」にチェックイン。旅愁をたのしむのも、そこまで。というのも、「ホリデーイン」はシュツットガルト市街を抜けアウトバーンに入るとすぐのミュンヒンゲンICで降りる、畠のド真ん中にあったからだ。まわりにカフェテラス一つありゃしない。えらいところに閉じ込められたぞ。それはまるで、「あなたがたは観光にきたのではない。ポルシェの真髄を識っていただくために招いたのだ」という、ポルシェの折り目正しい意志を、ぼくらにデモンストレーションしているようだった。
その予感は正しかった。ポルシェの広報マン、ウォルター・ヘーンシャイト氏は次から次へと豪華で綿密なスケジュールを用意してくれていた。
5月24日、午前8時45分。
「グーテン・モルゲン」(おはよう)、かるくウインクしながらヘーンシャイト氏が約束の時間きっかりに、もうひとりの広報マンを伴ってホテルに迎えにきた。あいにくの空模様だが、バイザッハ開発研究所に着くころには太陽が歓迎してくれるはずだ、という。
ぼくらを乗せたバスは、アウトバーンには出ないで、林檎の白い花に縁どられた田園の間を坦々と抜けていく。古い町並みを一つパスして、丘をのぼりつめると、赤、黄、緑の積み木を三方向からくっつけたような建物にぶつかる。それがポルシェ社の「頭脳」バイザッハ・ディベロップメント・センター。もちろんカメラカメラの持ち込みは禁止である。 |
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| 建物のまわりには高価なポルシェが無雑作に駐めてある。 |
バイザッハ研究所前 |
さてこれからが、いわゆるポルシェ攻めの連続だった。
クラッシュ・テストは時速120q/hからドーンとやる。どうだ、この衝撃吸収ぶりは? 市街地と同じ状態のギヤボックステスト。圧巻はタイヤ・テスト装置である。巨大なドラムの下端に納められたピレリP7(多分)が7度のスリップアングルを与えられ、悲鳴をあげている。これでサイド・フォースを試しているわけだが、ニューカーの開発には、かならずタイヤからショックアブソーバーにいたるまでが、徹底的にチェックされるという。それは関連メーカーとの共同開発というかたちをとるわけだが、たとえば930ターボの場合にはP7がもっとも性能を引き出すものとして標準装着を指定される。
短時間の見学では、なにやらものものしいポルシェの開発ポリシーを押しつけられた感じだったが、それもやがて氷解する。1周2・5kmのプルービング・テストコースが隣接されており、深紅のポルシェたちが、ぼくらを待っていたからだ。944、924ターボ911ターボの3台が用意されていた。と、何の因果か、ドライブする直前になって、雨足が激しくなった。
「残念ながら、ごらんのような状態でテスト・トラックは非常に危険だ。したがって、みなさんにハンドルを握ってもらうのは明日のホッケンハイムまで待っていただく。今日のところは、わが社のテストドライバーに任せてほしい」
ヘーンシャイト氏が済まなさそうな表情で、予定の変更を告げる。で、渋々とぼくらはプロドライバーの助手席へ。ぼくは真っ先に944を選んだ。 勢いよくスタートした944は右回りのブラインド・コーナーを抜けて、いっきに下り坂を滑りおりる感じで、はやくも大カウンター。そして水溜まり。 さすがのP7もグリップを簡単に喪って、右に左に、大きくブレークする。それでも最後の直線ではメーター読みで190q/hはマークしている。 |
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ご覧の超ウエット状態の聖地テストラン |
「このコースの路面は目的をもって荒らされている。だから街乗りの7倍くらい厳しい条件を備えているんだ」 ドライバーのクレマー青年が解説してくれた。2周で944から降ろされた。つづいて、ほかの2台にも同乗してみたが、この雨では比較もなにもありはしない。ホッケンハイムに期待しよう。
■手作り工場 見学の一部始終
ポルシェの本社工場、ツッフェンハウゼンまで、ヘーンシャイト氏が彼の所有する924ターボで送ってくれた。彼のようなポストにつくと、年に2台、ポルシェのどの車種であろうと20%引きで割り当てられるという。で、意地悪く聞いてみた。
「944に乗り換えるかい?」 「もちろん。944は2・5リッターエンジンで大きなトルクとパワーをもつ高性能車だが、異例の低燃費を示す。それにドイツ国内の値段で924ターボより約3000マルク(註・944は3万8900マルク、約420万円)。928は6万マルク。お買い得車だ。しかしポルシェファンがたくさん待っている。ぼくの順番がくるのはずっと先だろうし、この924ターボも気に入っている」 |
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| みごとな返答をしながら、林檎畑をシュアなテクニックで走り抜けていく。 |
アッセンブリラインから送り出された911は
敷地内のウエット路面で最終チェックを受ける |
午後はアッセンブリ・ラインの見学。928と911が丁寧に、宝石でも磨くような神経の使われ方でくみたてられる。それと944のエンジンも。すこし乱暴にいえば、924シリーズはVWのコンポーネンツを利用したポルシェ製のスポーツカーにすぎない。そこで素姓のいい928のオールアルミV8をタテ切りにして 100%ポルシェ製を実現した。で、このツッフェンハウゼン工場で944エンジンだけを組み立てているのもうなずける。
ここにはコンピュータはいっさいない。すべてが手作りである。ボディラインの叩きだし、3工程もの塗装。だれが組み上げたすぐにわかる工員ナンバーの刻印。ラインから吐き出されたポルシェはオイルを取り替えてもらうと、あっという間に梯子風の板を渡り、実走する。トラクションをかけ、サスのなじみやよじれをテストする。180カ所におよぶチェックポイントをパスすれば、市街地30kmテストランしたのち、待ち侘びるオーナーの手に渡される。
なんという完璧主義。それでいながら、ここで働く工員たちの伸びやかな勤務ぶり。バーナーでタバコに火をつける肥っちょ。トンカチをふるうのに口笛でリズムをとるものもいる。トヨタや日産の最新鋭機をズラリ揃えたライン風景にくらべれば、ここは町工場の延長でしかない。
が、間違いなく、彼らは一人一人が「ポルシェ作り」の芸術家たちであった。
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その夜のホテルでの晩餐は盛会だった。創立者フェルディナンド・ポルシェの甥であり、初代秘書室長でもあったE・J・ケース氏が高齢にもかかわらずぼくらをもてなしてくれた。枯れたジョーク、シリアスな目、ポルシェへの愛情は、創立者のユニークなエピソードをふんだんに披露しながら、ポルシェというスポーツカーの原像を語ってくれたが、くわしくは次の機会に譲る。
さて、ホッケンハイムサーキットである。幸い、翌日は晴れ。シュツットガルトからアウトバーンで一時間たらず、フランクフルトへむかう途中の、ハイデルベルヒという町の近くの森の中にサーキットはあった。1周6・79qの高速コースで、人工的なシケインでスピードダウンを図らねばならない。
944が3台と、911SCタルガ、928、924ターボの各1台がぼくらの試乗車だった。ポルシェのワークス・ドライバー、J・バルト氏がコースの説明と模範走行をしたあとでいよいよぼくらの出番! |
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| しかし残念ながら、当日はベンツのテストグループが外周を専有使用しているため、直線路が使えない。 |
インフィールドのショートカット・コースを
使っての試乗会。先頭がぼく |
スタンド前から右へ大きく回ったところで、森の手前にあるショートカット・コースに入る。二つのS字から、最終ストレートに合流し、すぐにヘアピンを隠しもったシケインへ逃げ、再び正面スタンド前に戻るという変則コースであった。これではタイム・アタックもできないが、ぼくらの腕からいって妥当な処置だったかもしれない。
初めにぼくに割り当てられたのはベージュメタリックの928だった。もちろんAT。ピレリP6、215/60VR15のタイヤを装着している。Dレンジにセットしたまま、ゆっくりとパドックを出る。4・5 の巨大なエンジンが吠えたがるのを極度に抑えながら路面の感じを確かめる。 |
つぎは911SCタルガ。黒のソフトトップを装着したままだと、ボディの白が際立って鮮やかだ。直角に立っているペダルの位置を気にしながら、クラッチ・ミート。うまくいった。アクセルを踏みこむ。鋭い加速。S字ではやくもテールが流れるのだ。タイヤはもちろんP7。ステアリングも快適にCPを狙ってくれる。
やっと944にありついた。シルバーメタのボディは、まさにGTカレラのそれだった。ポリウレタン製のノーズと巨大なスポイラーは、精悍な走りを保証しているみたいだ。
ドライバーズ・シートにおさまり、計器類をチェック。小振りな3本スポークのステアリングを軽く右、左に切ってみる。針の色は黄色で統一されていた。で、タコメーターは2時の位置からはじまり、4000回転で真下にくる。911を操作した直後なので、クラッチがひどく軽く感じられた。 |
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ここで改めて1速に入れ、スタートした。いっきに5000回転までひっぱったところで2速へ。静かだ。しかし、3300回転を超えたあたりからたくましく加速すると同時にターボ音に近いフィーンというサウンドが加わった。あれっ、ターボ車かい? 「あれっ!?」はさらに続く。S字から最終ストレートに入り。右のシケインへ抜ける大事なあたりで6300回転にメーターが届くとゴクンとドロップするではないか。あわてて3速へシフトアップ。あとで知ったことだが、そこに944の新しさがあるという。レブリミットで点火のカットと燃料カットが同時にはたらくシステムだった。これで燃費効率を高め、省燃費時代に対応するポルシェの高度な技術を世に問うわけだが、わが国のマキシマム・スピードで襲ってくる燃料カットとは、ずいぶんと異なるシステムではある。
944でさらに1周。慣れてくると、安定した走りっぷりはやはりポルシェそのものだった。背後からエンジンノイズが襲ってくる911もいいが、前に出ようとするドライバーのこころをさらにくすぐってくれるバランスのいい944のレスポンスにぼくは酔った。先行する深紅の928をヘアピンのアウト側から、かるくパスしてやった。
さてこの944に日本仕様は排ガス規制をパスするためには、どれほどの牙を抜かれるのだろうか。ちなみにポルシェ自身の性能公表値は使用燃料がオクタン以上で、163q/5800rpm、20・9qm/3000rp、最高速度、220q/h、0〜100 q/h、8・4秒だという。
ホッケンハイム走行会を終わって、つぎの〈アウトバーン体験〉は、911SCカブリオレを選びたいな、なぜかぼくはそう思った。
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